◆「ロルフィー」で声優としての第一歩を

運命が扉をたたく瞬間。声優・大野まりなの人生において、それはNEC『アニメフリークFX』のイメージキャラクター、ロルフィー役に抜擢された時だった。
待ちに待ったアフレコ初体験。高まるドキドキ・ワクワクの中、マネージャーからの叱咤激励が飛ぶ。
「クチパクなんて合わなくていい。大事なのは演技力だ。だからとにかく、がんばってがんばって、がんばって演技をしてみて」
ヘタはヘタなりにがんばるしかないっ!(でも、だいじょうぶカナ…)消したい不安と消えない緊張を抱えながらの現場入り。いよいよなのダ。
スタジオには監督にスタッフ、そしてベテランの声優陣がズラ〜ッ。まりなちゃん、ちょっぴり冷や汗ダラ〜。一人だけの収録は経験ズミとはいえ、こんなに大勢のセンパイに囲まれての録音は初めて。ラジオ『声優グランプリ』では、“おしゃべりパワー”全開!のまりなチャンも、この時ばかりは借りてきた猫状態。コチコチになりながら、何回もテストをやってもらい、さァいよいよ本番。
しかし、う、なかなか声が出ない。どうしてもクチパクを意識してしまう。「あ、皆さんどう思っているんだろう?」「あ、また、どう思ってるんだろう」ってそっちの方が気になっちゃっう。(これじゃ演技がオルスになるよ〜)。一回NGを出すとどんどんハマる…。今でもこの時のことを思い出すと、まりなちゃんの顔には“苦虫くん”が走ってしまう。
うまくできない自分が情けなかった。ようやく慣れてきたのは、出番の終わった先輩たちが抜けていって、最後一人になってから。
「やっぱりプッタリ(クチパクが)合う先輩を目の前に見ちゃうと、ウーン、つらいですねぇ。監督さんやマネージャーが『このコ、アフレコ初めてなんで』ってフォローいてれ下さったので、皆さんわかってらしたとは思うんです。だけどやっぱり恥ずかしいって気持ちがありますよね。だから、とにかく一生懸命やるしかないんだなって思いました。技術はなんのも持ってないけど、でも絶対ガンバることだけはなくさないでおこう、そう肝に命じました」
ちなみに、このあと食べたお弁当ほど「あ〜おいしい・」って感じたものはなかったそうだ。やっぱりゲンバ踏まないとだめですネ、トしみじみ。
ちょっとやそっとでヘコたれちゃ〜いられない。“がんばってがんばってがんばるゾー”のまりなちゃん。そのくらい<ロルフィー>には入れ込んでる。何といってもオーディションではナミダ・ナミダの苦労を味わったのだ。4年間在籍した某大手芸能プロダクションから青二プロへ移籍して約三ヶ月。声優としての道を歩み始めていた彼女に大きなチャンスが訪れた初めてのキャラクターオーディション それが<ロルフィー>との出会いだった。
これを獲得できれば、イベントやゲームなど大きな展開が待っている。しかし、“なんとかモノに!”の意気込みと、周囲のきたいがプレッシャーに。その上、
「そういう時に限ってカゼひいちゃうンです。あたし」
当日、家を出る時には小康状態だった夏カゼは、事務所に着く頃にはネツ・ハナミズのオールスターキャスト。(どうしよ…)でのどはカラカラ。水分をいくら摂ってもみんなハナからさようなら…で、文字通りふらふらのまま本番を迎えてしまったのだ。
頭では“こうだ”とわかっているのに、出てくる声が全然違う。
「ホント棒読みで、もう演技になってないんです」
(こんなので受かるのかな…)。会場にいる間中、不安の黒雲がつきまとう。他の声優はみんな一回でOKが出るのに、まりなちゃんは2回やってもヤリナオシ。これが不安に追い討ちをかけた。
「エー、なんでみんなこんなに早く終わるの!?ああ、もうダメだって思いましたね」
マネージャーに『とりあえずこれを飲んでガンバレ』と渡されたお水を、一気に飲みほして臨んだ3回目。残る力をふりしぼり、精一杯、倒れそうになりながら原稿を読んだ。でもとうとう、納得の行く出来にはならなかった。
NECの人に、「ごめんなさい、あたしほんとダメです。ご迷惑おかけしてすいません」って泣いてしまった。
先方は「おカゼって聞いてますから、気にしないで下さい」と言ってくれたが、コレが気にせずにいられようか。これでせっかくんpチャンスが台無しになってしまたのだ。
帰りの地下鉄では声を上げて泣いた。
駅員さんが驚いて駆けつけてきた。どうしたの?何かされちゃったの?
「いいえ、大丈夫です。つらいことがあっただけです」
「そうですか、元気出してくださいね」
優しい駅員さんだった。


(本文より抜粋)

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